京都府長岡京市のKIYOです。前回は固定資産税課税がいかに難しいか、だからこそそのお仕事をすることで鍛えられることを述べてきました。今回からは、具体的な話をしていこうと思います。
前回の記事(Vol.2)はコチラ→https://comuin.com/2019/11/05/post-599/
繰り返しになりますが、「正しい課税」とは以下のようなことだと説明しました。
- 正しい者を納税義務者とすること
- 正しい金額で課税すること
- 正しい時期に、正しい方法で納税義務者に納税の告知を行うこと
今回は1点目の「正しい者を納税義務者とすること」の話をしていきます。
◆そもそも固定資産って?
固定資産と言えば土地と家屋をイメージされると思いますが、これに加えて「償却資産」も課税対象となる固定資産です。償却資産とはざっくり言うと事業用資産と理解していただければ結構です。ちなみに、固定資産の定義、そして土地、家屋、償却資産の定義は、地方税法341条に規定されています。(以下「法341条」のように略します。)
◆そもそも固定資産税って?
当たり前ですが、固定資産の所有者かかる税金です。ではなぜ固定資産の所有者に税金がかけられるかと言うと、固定資産の所有者はその分の行政サービスを受けているからだと説明されます。土地や家屋を持っていたら、「そこに行くまでの道路については自治体が整備しているのだからその分の負担をお願いします!」というイメージです。このことを、専門用語で「応益原則」と言います。ちなみに、所得、消費などの経済力に応じて税を負担させる考え方を「応能原則」と言ったりしますが、固定資産税の課税根拠は「応能原則」ではなく、あくまで「応益原則」と言われています。
◆で、誰に固定資産税が課されるの?
もちろん、固定資産の所有者です。ここで言う「所有者」とは原則として1月1日時点の登記名義人です(法343条、359条)。そのため、登記所は登記された情報を市町村長に通知する義務があります(法382条)。なお、償却資産には登記制度が存在しないので、所有者には1月1日時点の所有状況を申告する義務が課せられています(法383条)。
ちなみに、共有の場合は共有者全員の連帯納税義務となります(法10条の2)。税額が40,000円でAさんとBさんがそれぞれ持分1/2の場合、Aさんに20,000円、Bさんに20,000円ではなく、AさんBさん全体に40,000円が課税されるイメージです。
また、マンションの一室を所有する場合は、ざっくり言うと、マンションの部屋(家屋)分に加えて、マンションが建っている土地について敷地権割合で按分した税額が課されることになります(法352条、352条の2)。
◆実は難しい納税義務者の特定
以上、土地や家屋は登記情報を、償却資産については申告内容に基づいて課税するという話をしました。簡単そうに聞こえますが、一筋縄ではいかないのが固定資産税課税の奥深さです。
まず、未登記の取扱いです。家屋の場合、建物を建てた(または取り壊した)場合は、登記(表示登記)する義務があります。しかし、登記されない家屋もゼロではありません。そのような家屋については基本的に自治体が把握する手段がありません。発見したら、基本的にはその建物のある土地の所有者に申告等してもらうなど、個別に対応する必要があります。
それ以上に厄介なのが、「死亡者課税」の問題です。先ほど表示登記は義務があると言いましたが、権利登記(所有者を特定するための登記)は義務化されていません。そこで特に問題となるのが「登記名義人が死亡しており相続登記がなされない場合」です。1月1日以前に登記名義人Aが死亡した場合はその固定資産は相続人全員の共有となりますが、その相続人調査が必要となること、複数の相続人がいる場合に誰に納税通知書を送るのかの判断が必要となること等、追加の事務が増えてしまいます。(あくまで共有は連帯納税義務なので、相続人全員を調べ上げる必要もなく、相続人全員に納税通知書を送付する必要もありません。しかし、特定の相続人に納税通知書を送付すると、他の相続人に納税通知書を送付するよう求められることもあり、その点は面倒です。)
さらに、1月1日より後に(かつ納税通知書発送までに)登記名義人が死亡した場合は、「納税義務の承継」という枠組みになり一層厄介です(法9条)。ただ、話がややこしくなるので詳細は割愛します。
◆さいごに
「納税義務者=固定資産の所有者」という単純な図式であるにも関わらず、いろいろな論点があることをご理解いただけでしょうか。また、一つひとつに法的根拠があることも感じ取っていただけたのではないでしょうか。まずは、固定資産税課税のお仕事の特性について雰囲気だけでも伝わっていれば幸いです。(つづく)
【補足】2020年12月現在、権利登記は義務化されていないと言いましたが、法務省において、所有者不明の土地が増えている問題を解消するために民法と不動産登記法を見直す(権利登記の義務化)という議論が進んでいます。
この記事へのコメントはありません。