上杉鷹山式業務改善 | 隣の公務員

上杉鷹山式業務改善

初投稿です。公務員歴25年、風羅といいます。

私は市役所職員をやりながら創作活動を行っていますが、私淑する作家に童門冬二さんがいらっしゃいます。童門さんは東京都職員として勤務されながら数多くの小説を執筆されましたが、中でも「上杉鷹山」は素晴らしい作品です。
最近、この作について書かれた「上杉鷹山の経営学」を読んだところ、その組織マネジメントについてハッとさせられた記述がありましたので紹介させてくださいね。

崩壊寸前の財政

上杉鷹山は、1767年(明和4年)に米沢藩(山形県)の藩主となった人物です。鷹山が跡目を継いだ時点では、これまでの財政運営の失敗により藩は破綻寸前だったそうです。
その当時は日本中どこも構造不況で、幕府も各藩もそろって「財政再建のための行政改革」に狂奔するのですがうまく行きません。鷹山は、特に幕府の行政(経営)改革がこれまでなぜ成功しなかったのか次のように考えました。

  1. 改革の目的がよくわからなかったこと
  2. しかも、その推進者が一部の幕府エリートに限られたこと
  3. 改革を行う幕府職員にも、改革の趣旨が徹底していなかったこと

国民に対する施策も問題は多かったのですが、内部組織のことに限ってさらに言うと、

【改革を進める官僚は、すべてエリートであり、部下に対して、指示・命令としてのみ方法を押し付けたこと】

鷹山はこう分析した後に、「改革の根本に優しさといたわり、思いやりがまったく欠けている」と気づいたそうです。
なんだかどこかの役所にもありそうな話ですね。

組織の変革

これを踏まえ鷹山は、藩政改革案を作り、身分の低い足軽も含めた全藩士に登城を命じました。城の大広間は人で溢れかえったそうです。そしてその場でこう語りかけました。

「今、この広間でみんなに頼むことは、指示・命令でなく、協力の要請である。私は、みんなを統制・統御する力は持っていない。目標に対して私の力はあまりにも小さすぎる。限界がある。したがって、藩士のみんなは大きすぎる目標に比べて小さすぎる私の実態をよく見つめ、その目標と私の力との間に空いた隙間を、みんなの協力によって埋めてほしい」

そして、さらに次のことを約束し、要請しました。

  1. 今後の改革に必要な情報はすべて包み隠さずに、藩士全員(末端のヒラ藩士まで)に告げる。
  2. 各持ち場では、その持ち場における討論を活発にしてもらいたい。身分の上下にかかわらず、思うように意見を言い合えるような職場づくりに勤しんでもらいたい。そこで合意された良い意見は、組織を通じて、必ず私の手許まで上がってくるようにしてもらいたい。
  3. 私の考えや、重役たちが相談して決めたことは、必ず末端のヒラ藩士まで行き届くように努める。つまり、みんなの考えが私のところまで届くための回路と、私や重役たちの考えがみんなのところに届く回路とを、一本化する。その回路は、太く短くする。

ここまで読んで、ふと私は、どこかで聞いたことのある話だなと気づきました。
そうだ!業務改善だ!
私は、数年前まで「業務改善」の担当をしていました。幸いこの分野は全国の交流会が盛んで、取り組み発表会や勉強会に多数参加させていただきました。そこで鷹山がおこなったことと同じような手法が効果的であることを学びました。

トップダウンとボトムアップ

つまり鷹山は、現代風にいえば、

  • 情報の共有(トップへの偏重を避ける)
  • 討論のすすめ
  • コミュニケーション回路を太く短く設定する
  • トップダウンとボトムアップを滑らかにする

ということを行い、組織風土の改善を図ったのでしょう。

トップダウンで行う行政改革に対し、ボトムアップで行う業務改善を連動させるとうまく行くということも聞いたことがあります。今から250年前に、もはや鷹山はこれを実践していたのです。
この時代は封建社会で、ここまでやるトップは珍しかったに違いありません。その熱意と真摯さは藩士の心に火を灯します。そしてオール米沢藩士で挑んだ改革はやがて実をなし、破綻寸前だった藩財政を再建させました。

現代に戻って私たちの自治体運営のことを考えるに、江戸時代以上に封建的で職員のやる気を削いでしまっている組織は、実は結構あるのではないでしょうか?!または、業務改善の制度があるのにやり方を間違えていて、ボトムアップにつながらなく「やらされ感」しか引き起こしていないなど…
やはりそこでは、鷹山が改革の根本に置いた「優しさといたわり、思いやり」をもって実行していくべきなのではないでしょうか。

なお、私が業務改善でやってきたことはまたどこかで書こうと思いますが、とてもお世話になったのは「自治体改善マネジメント研究会」です。その折は、たいへんありがとうございました。

 
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風羅

郷土の歴史を題材にした創作活動も行ってます。 得意分野は岐阜の戦国時代と刀剣。 趣味と実益を兼ねた記事を書いてみたい!

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