今回は、新規採用された1年目に配属された土木事務所での経験を書きたいと思います。
私が配属されたグループは、道路、河川に関する苦情の対応と、許認可、屋外広告物に関する許認可をする仕事でした。
屋外広告物に関しては、大阪府の場合、ほとんどの事務が市町村に委譲されたので、今回は割愛します。
単語がわからない
配属された先で、まず戸惑ったのが、土木独特の単語でした。
「新採(わが社では、新規採用職員のことを、新採と呼びます)は、まず電話をとること!」という先輩の言葉に、素直に「はいっ」と返事をしたものの、とった電話の言葉が全然聞き取れないのです。
「メンセキリッカイの日程を決めたいのですが」
「ウスイマスとオスイマスの」
「グレーチングのセンヨウ許可が」
「チュウジョウカイリョウについて」
???
ワタシ 日本語 ワカリマセン
と思わず言いそうになります。
単語がわからないので、誰が担当なのかがわからない=取り次ぎができない! のです。
さらに、電話が府民さんからのものだった時には、より事態が深刻です。問題のある箇所を表す地名や道路、河川名が聞き取れないのです。
特に地名には苦戦しました。地図とにらめっこしながら、場所を探すのですが、たとえば「神出来」なんて、まったく読めませんでした。(ちなみに、「かんでら」と読みます。)
何度も聞き返す上に、場所を探すのにも時間がかかるので、府民さんを余計にイライラさせてしまいました。
府民恐怖症に陥る
これまで、人との衝突をできる限り避け、まじめに清く正しく生きてきた(つもり)の私は、この職場で、初めて人から怒鳴られるという経験をしました。
衝撃でした。
身体がこわばって、冷や汗が流れて、のどがカラカラになる。
「あんたら公務員なんか仕事してないんやから、給料全部、お詫びにもって来い!」
「想定外なんか許されんのじゃ!」
こ、怖い。
府民さん、怖い。
なんか、みんな怒ってる……。
公務員になったことを心底後悔しました。でも、生活のためには働かなければならない。これが私の公務員生活の始まりでした。
道路で猫が死んでいます
公務員になる前、道路で猫が死んでいたら、かわいそうに、と思うことはありました。しかし、その後、その猫がどうなっているのかを気にかけたことはありませんでした。
ぼんやりと、雨で流れていくのかな、などと思っていました。
アホの子です。
土木に配属されて、現実を知りました。
拾うのです。
ご連絡があれば、シャベルを片手に、せっせと拾いにいくのです。
最初は衝撃でした。
しかし、次第に慣れてくると、府民さんに罵声を浴びせられることはないので、好きな仕事の1つになりました。
大学を卒業して、公務員になり、まさか死んだ猫を拾うことが仕事になろうとは。そして、それが好きな仕事になるとは、人生、何があるかわかりません。
「怒ってはるんじゃない、困ってはるんや」
そんな土木生活の中で、それでも耐えれたのは、先輩や同僚に恵まれたからです。
上の言葉は、年上の同僚に言われたことです。
なるほど、とは思っても、だからと言って恐怖感が和らぐわけではありません。
しかし、初めてお礼を言われたとき、「ああ、本当にそうだったんだなぁ」と思えました。
公務員生活の原点
そんな中、恐怖症が和らいだのは、府民さんと共に川の掃除をするイベントに参加したことがきっかけでした。
そこで初めて、「怒っていない」府民さんと言葉を交わしたのです。
私の頭の中で、「府民さん=怒っている」という式ができあがっていました。それが、思い込みだったことに気づくことができたのです。
「ああ、声が大きい人だけが府民さんじゃないんだ。」
そして、私の仕事は、このたくさんの人たちが、声を荒げる必要がないように、苦情先の電話番号を調べる必要もなく、意識をする必要もなく生活できるように、道路や河川を整えておくことなんだと。
いまだに、府民さんからの電話は緊張します。
それでも、このときの経験があるからこそ、なんとか、今も電話を受けることができています。
これが私の1年目であり、公務員生活の原点です。