私は、大阪府内の基礎自治体勤務の職員です。2020年5月末の第一子の誕生に合わせて、2020年6月~9月末まで4か月の間、育児休業を取得しています。
社会全体で見ても、男性で育児休業を取得した方はまだ少ない印象です。そんな中、私が過ごした育児休業中の4か月間は、当たり前のように日々仕事に行き、精一杯汗をかいて働くという日常から少し離れ、めいっぱい家族と過ごす時間を作ることができました。
そこで、なぜ私が育児休業を取ろうと決めたのか、育児休業してどうだったかなど、この機会に今の自分の気持ちを振り返りたいと思います。また、このような育児休業にまつわる話を、公務員志望者の方や若手の公務員の方に向けてお伝えできればと思い、寄稿することにしました。
これは、あくまでも一職員の体験談として記すものです。全ての公務員職場に当てはまるものではないことは、あらかじめご容赦いただければと思います。
育児休業を取った理由
なぜ、私が育児休業を取ろうと思ったのか、理由は主に3つです。
1.育児休業を取るための制度が充実していて利用したいと思った【制度の話】
- 育児休業中の手当金の額が期待以上に多かった
- 出産に伴って配偶者(男性)が利用できる休暇制度があった
2.職場の雰囲気が育児休業取りたいと思わせてくれた【職場環境の話】
- 上司や同僚の理解と協力が得られた
- 過去に育児休業を取得した職員がいた
- 定時退庁や突発的な休暇取得にも理解があった
3.どうしても育児休業取りたいという私自身の思いがあった【個人の話】
- 子供が好きなので子育てにしっかり関わりたかった
- 妻と夫それぞれのワークライフバランスをとりたかった
- 妻の両親は現役フルタイム勤務のため里帰り出産は選ばなかった
- 妻の子育てに対する不安を和らげたかった
1.育児休業を取るための制度が充実していて利用したいと思った【制度の話】
当たり前のようですが、私が育児休業を取ることができたのは、男性でも育児休業を取得できる充実した制度があったおかげだなあと感じています。
- 育児休業中の手当金の額が期待以上に多かった
子供が産まれてから1歳を迎えるまでの間、育児休業を取っている職員は、額面上の給料のうち、およそ「3分の2」を受け取ることができます。大学卒業後、大阪府内の市町村職員として10年程度働いてきた私の場合、額面上の給料がおよそ28万円程度になります。これの3分の2だと、約19万円になります。
給料から天引きされている社会保険料は、育児休業のあいだ支払う必要がなくなるため、この支給額がそのまま手取り額になります。(ただし、税金は別途自分で支払いに行く必要があります)。
これに対して、通常通り勤務していた場合は、額面上の給料から社会保険料(給料のおよそ15%)や税金が引かれます。手取り額は、約23万円です。これを踏まえると、育児休業期間中の収入は、育児休業前の8割程度となる計算です。
たとえ育児休業で休んでいても、収入の約8割は維持できる。これが育児休業を取ってみたいと思う第一歩になりました。ちなみに、我が家は妻も民間企業でフルタイム勤務していて、夫婦共働き世帯です。妻の育児休業給付金と合わせれば一定の収入額が確実に得られることも前向きに検討する材料になりました。
- 出産に伴って配偶者(男性)が利用できる休暇制度があった
先ほどは休業の話でしたが、次は「休暇」の話です。産前/産後に働きながら休暇を取れる制度があることは、とても心強いなと感じます。
休暇制度の具体的な条件や利用可能な日数は勤務先によって大きく変わると思うので、参考情報として紹介します。私の勤務先では、男性の場合だと2種類の休暇制度が利用できます。
1つ目は、妻の出産に伴うサポートのために取得できる「出産補助休暇」が7日間。出産予定日の4週間前~出産後3週間まで利用できます。臨月が近づいた妊婦さんは通院だけでも一苦労です。出産後の退院の付き添いや、役所での各種手続きに合わせて休暇を取れます。私の場合は、妻の退院後にまとめて取得させてもらいました。
2つ目は、妻の出産に伴い未就学児の世話をするために取得できる「育児参加休暇」が2日間。出産予定日の8週間前~出産後8週間まで利用できます。第二子以降の出産に臨む際に、きょうだいの世話をしながら産前/産後を乗り切ることの負担が大きいことから、その負担軽減のために利用できる制度です。私は該当しないため利用していません。
ちなみに、ここでの「妻」は事実婚のパートナーも含む、と私の勤務先は解釈しているため、戸籍上の妻だけに限定していません。
いくら育児休業を取りたいと思っても、制度がなければ休めませんでした。制度があっても収入面での不安があれば休もうと思えませんでした。現在、男性の育児休業に関しては政府でも更なる充実化に向けた検討が進んでいると聞きます。この先、育児休業の制度を活用したいなと思う人がもっと増えるような制度設計になっていけば嬉しいです。
育児休業に関する制度については、今回の育児休業に当たって色々と関係情報を調べる機会になりました。機会があれば、この記事とは別に、改めて整理してご紹介できればと思います。
2.職場の雰囲気が育児休業取りたいと思わせてくれた【職場環境の話】
- 上司や同僚の理解と協力が得られた
私は今回6月から育児休業を取りましたが、実はその直前の4月に人事異動で新しい部署に移ったばかりでした。異動前の部署にいるときに妻が妊娠したことを同僚に報告して、育児休業を取りたいと上司に申し出ていました。異動前の部署は、所属して4年目で仕事に慣れていたこと、職員数が10名弱でとても風通しのよい雰囲気だったこともあり、同僚や上司にはとても相談しやすかったです。上司もぜひ取ったらいいよと背中を押してくれました。また、毎年人事部局に提出する異動希望調書にも、育児休業をどうしても取りたいと書いて出しました。後で聞くと、私が育児休業を取りやすくするためにもこの春は異動させず留任が望ましいと上司が人事部局に掛け合ってくれていたようです。それでも4月に異動しました。役所の人事異動は、本当に思いがけずやってくるものです。
そんなことでまさかの人事異動をすることになったのですが、前の部署の上司が、私の育児休業は何としても取らせてやってほしいと申し送りをしてくれました。それを踏まえて、異動先の上司と同僚も、私が育児休業を取ることを念頭に置いた職員配置や職務分担の調整を行うなど最大限の配慮していただきました。本当にありがたかったです。
今回のことを振り返っても、一人の育児休業でこれほどの調整が必要になるものかということを身にしみて感じました。現状は、どこの部署においてもここまで融通を利かせた職員配置ができるような職場状況というわけではありません。そうした意味では、男性の育児休業が取りやすい環境はまだまだこれからだと思います。しかし、そうした方々の理解と協力があったからこそ、まとまった期間を使って育児休業を取りたいという思いが強くなって、その一歩を踏み出すことができたのだと思います。
- 過去に育児休業を取得した職員がいた
私の勤務先では、過去に育児休業の経験ある方が、面識ある先輩や同僚だけでも複数名います。
妻の仕事復帰に合わせて入れ替わりで長期間の育児休業を取った人、双子の出産に合わせて長期間の育児休業を取った人、第二子誕生に合わせて数か月の育児休業を取った人、育児休業は1か月で終えたけど子供の送迎のために時短勤務をしていた人など、それぞれに置かれた職場環境や家庭環境、ご本人の思いを踏まえて育児休業を取った方からの経験談を以前から聞く機会に恵まれてきました。そうしたこともあり、いざ自分の子供が産まれるとなった場合、自分はどうしたいのだろう?と以前から考えることが多かったと思います。そのような機会に恵まれたおかげで、育児休業を取りたいという思いを強くしたのだと思います。
過去に育児休業を取った人が復帰後もそれぞれの職場で活躍している姿を見てきました。先行く人の存在があったおかげで、育児休業を取ったとしても、自分だって頑張ればきっとやっていける、きっと大丈夫だろうという気持ちを持てました。そして、復帰してからはさらに仕事を頑張って、もっと活躍したい、この先将来に続く方たちの道しるべの一つに私もなりたい、と思うようになりました。
- 定時退庁や突発的な休暇取得にも理解があった
異動前の職場には、子育て世代の先輩・上司が数名いました。その方々は、日ごろから「子供のお迎えのためにこの日は定時退庁マストなんです、スミマセン」と言いながらもバッチリ仕事を片付けて帰っていました。また、お子さんの参観日の日には必ず休暇を入れていて、職場に影響が出ないよう丁寧に仕事を調整していました。他にも、上司が子供の体調不良で急に休まないといけなくて休暇を取ったときは、周囲も事情を理解を示していて、「お大事に」と声を掛け合う関係性がありました。その方は、ちなみに休み明けの次の日、バッチリ仕事を巻き返して片付けて帰っていました。いつもかっこいいなと思いながら一緒に働いていました。
このような先輩・上司の背中を見て仕事をしてきました。なので、子育てなどで余裕がない時は周りが助けるといった「お互いさま」を大事にするスタイルが理想的だなあという思いが私にも自然と芽生えていました。
職場の環境は、勤務地域や組織全体の風土、その部署の仕事の特徴、上司・同僚のカラーに大きく左右されやすいものだと思います。なので、公務員だから必ずしも全ての職場でみんなが育児休業を応援してくれる雰囲気ばかりだ、とは私も言い切れません。
しかし、ここ最近になって働き方改革が叫ばれる世の中に変わってきたと感じています。育児休業を取りたいと思う人には、追い風が吹き始めています。このような社会の変化に伴って、職場環境の当たり前の水準も少しずつ変わっていくと思います。これから先は、今以上に男性の育児休業を取る人が珍しくないと思ってくれる職場は今後増えていくのではと思います。(とはいえ公務員の世界ではどこまでのスピード感で変化が広がっていくかは未知数かな…)
今回、育児休業を取るまでどのように職場と相談して調整きたかなど、詳しいエピソードの部分の多くは割愛しました。機会があれば、この記事とは別に、改めて整理してご紹介できればと思います。
3.どうしても育児休業取りたいという私自身の思いがあった【個人の話】
- 子供が好きなので子育てにしっかり関わりたかった
私は子供の頃、学校の先生になるのが将来の夢でした。近所にいる年下の子の世話をしたり、勉強を教えたりするのが好きで、将来は子供の役に立てる仕事がしたいと思っていました。また、自分自身が父親になった時は子供と過ごす時間をめいっぱい大切にしたいと思っていました。
結局は縁あって自治体職員として働くことを選びましたが、そのおかげで育児休業の制度を身近に知ることができ、過去に育児休業を取った経験のある先輩の話を聞くことができました。ひとりの父親として、子育ての第一歩として、私も育児休業を取りたいなという思いを強く持つことになりました。
- 妻と夫それぞれのワークライフバランスをとりたかった
先ほど触れたように、我が家は夫婦共働きです。妻は民間企業でフルタイム勤務をしています。結婚を機に、大阪を拠点に働ける環境を選んで転職してくれました。転職するまでは妻の方が仕事が忙しく、年収も妻の方が高かった状態でした。そんなこともあって、夫婦間で仕事と家事を切り分けて分担するという発想が我が家にはありません。夫も妻も全力投球で仕事して、家事も同じだけやるというスタイルです(今のところ家事分担は、夫:妻=4:6くらいの自己評価。妻に甘える部分も多いのが反省点です)。もちろん育児も、基本的には二人で同じだけ分担するという方針です。
妻は、子育てにじっくり時間を割くことと、仕事のキャリアを積み続けることを天秤にかけることがあったときは、後者を選びたいと、結婚前からいつも私に話してくれていました。子育て中の働く女性に対する世の中の目は、まだ冷ややかな状況です。そんな妻のワークライフバランス観(仕事を諦めずに子育て頑張りたい)と、私のワークライフバランス観(とことん子供と一緒に過ごせる時間を確保したい)の釣り合う場所の1つが、夫の私も育児休業を取ってみる、ということでした。ちなみに妻は来年3月まで育児休業中です。
- 妻の両親は現役フルタイム勤務のため里帰り出産は選ばなかった
妻の実家への里帰りもできたのですが、私たち夫婦は30代前半で、双方の両親は50代後半。妻の両親も現役バリバリでフルタイム勤務しているので、全面的に子育てのサポートを得るわけにはいきませんでした。加えて、新型コロナウイルス感染症のさなか、里帰り出産&子育ては容易ではなかったため、今回の選択肢には入りませんでした。大阪で、妻一人で、新生児の子育てに向き合い続けなければならないという環境は避けたかったので、これは私も育児休業を取らねば、と思うに至りました。
- 妻の子育てに対する不安を和らげたかった
子が産まれて親になると、どの親も必ず”いばらの道”を通るものだと聞きます。本当にその通りで、今まさに、子育ては本当に苦労の連続だということを身に染みて感じています。子が産まれたら、親も「ママ1年生」「パパ1年生」ですべてが初めて。妻も私も子供と接するのは大好きなのですが、なにぶん不慣れなことが多く、ちゃんと子育てできるかという不安は尽きません。出産前に産院などが主催する母親学級や両親学級などの講座は、新型コロナウイルス感染症の影響でほぼすべて中止になりました。特に妻はまだ経験したことにない子育てに対する不安を強く感じていたので、私も一緒にその試練を乗り越えたい、まずはその第一歩を一緒に踏み出したいという思いがありました。
まとめ
私が育児休業を取りたいと思った理由は、「制度」「職場環境」「個人の思い」の3つの要素が、全てうまく噛み合っていたからでした。
「制度」については、現状の手取り収入額の8割近くが確実に手元に届くことが分かったことで、収入面での不安を全く感じることなく過ごせました。
今後、男性育児休業をめぐる議論が進展すれば、収入面での不安を感じることなく育児休業を検討できる人がさらに増えるかもしれないと期待しています。
「職場環境」については、身近な同僚・上司に相談したいと思える風土があったこと、私の思いを受け止めて力になってくれたことが大きかったです。
自分個人だけで職場の環境を変えようとしても、一筋縄ではいかない要素も多いと思います。ですが、世の中の常識は少しずつ変わっていきます。公務員の世界でも、30年以上前であれば、女性はお茶くみ担当、執務室での喫煙は当たり前だったと聞きます。また、女性は結婚したら寿退社すること、出産したら退職すること、男性は家族との時間を犠牲にしてでもモーレツに働くことが当たり前だったと聞きます。今の公務員の世界であれば、女性だと出産後からお子さんの保育園入所が決まるまで1年近く育児休業されるという方も多くなりました。これもまだ道半ばだと思いますが、当たり前は変わると思います。おそらく男性の育児休業も、もっと特別ではない存在になるのではと感じています。
「個人」の思いは、人それぞれ、パートナーとの関係性それぞれにあると思います。今回は、私のエピソードを紹介しました。ここに書いた私の考えが正しいかどうか、ではなくこうした考えの人間の選択肢も、また一つあるんだな、といった具合で知ってもらい、理解してもらえる社会が理想だなと思っています。
最後になりますが、育児休業を取ることが正しくて、取らないことが悪いというわけではないと思っています。育児休業を取らなくても、家族とのコミュニケーションを大切にし、夫婦や家族の役割分担のバランスを取っている方は実際にいます。それを踏まえたうえで、このような育児休業を取るといった道も、働き方や生き方の有力な選択肢の1つとして認知されていけばなあと、育児休業を取ってみて改めて感じました。
長文になりましたが、読んでいただきありがとうございました。