地方公務員の新しいキャリアデザインを読んで考えた副業とキャリア | 隣の公務員

「地方公務員の新しいキャリアデザイン」を読んで考えた副業とキャリア


ありがたいことに、実務教育出版さんから、生駒市の小紫市長の本をいただきました! う、うれしい!! せっかくなので、今日は、この本の感想と、副業について、語りたいと思います。


公務員を志望する学生さんや、公務員に転職しようとする人に、「面白い自治体はない?」と聞かれたら、必ずあげたくなる自治体が2つある。


一つは、神戸市。そして、もう一つは、今回の本の著者である小紫氏が市長を務める生駒市だ。

どちらも関西圏というのは、私の地元贔屓なところなので、どうか他の自治体のみなさんは怒らないで欲しい。私が知らないだけで、きっともっとたくさんの素敵な自治体があることだろう。

ただ、この2市には、共通点がある。

それは、職員の副業を許容していることだ。

公務員の副業は、地方公務員法第38条において、営利企業等の従事制限という形で、定められている。簡単に言えば、「任命権者の許可がなければ」副業は、できない。でも、このような制約が、地域に飛び出す公務員の足かせになっているのではないかと、早くから動いたのが、神戸市と生駒市だ。任命権者の許可がなければできないのならば、任命権者の許可があれば、「できる」と解して、許可制により副業を認めたのである。

小紫市長のことを、最初に知ったのは、島田さんの記事だった。


この

「本業ができてから副業でしょ」なんて全然ダメ!

にしびれた。

本書は、4章構成になっていて、キャリアを主な関心事とする私にとっては、副業を含む自治体の人事制度について記載された1章と、個人のキャリアについて述べられた4章が特に面白いと感じた。

公務員の副業については、賛否両論ある。多数派は、副業禁止だろう。「公務員たるもの、私生活においても、無償で奉仕すべし」も一つの考え方だと思う。ただ、総論ではなく、一個人として見たとき、公務員であっても、民間企業に勤めている人であっても、同じように可処分時間が限られている中で、仕事と家庭以外に時間を割くことは、結構、難しいのではないだろうか。その活動で、お金が減っていくなら、なおさらに。よほど楽しいことや、やりたいことでない限り、できない。仮にできたとしても、楽しくて、やりたいことの中にも、必ず好きではない作業や、不快に思う出来事もある。そういうとき、対価がなければ、やめてはいけないという責任感は薄れるから、持続可能性という観点でも、やはり無償の奉仕は難しいと思うのだ。(だからこそ、人のために無償の奉仕をし続けることができる人はすごいと思う。)


さらに、決定的に異なるのは、学ぶことへの意欲だと個人的には思う。公務員がスキルを磨くモチベーションを保つのは難しい。なぜなら、自分で勉強しようにも、民間企業のように教育訓練給付金のような補助は出ないし、異動が当たり前の組織の中で、スキルを磨いたとしても、利用できるとは限らないからだ。学んだことを活かせない、すなわちお金にできないのが、今の公務員だ。投資に対するリターンが、自己満足で終わってしまう(私のように)。


しかし、普段組織から毎月支払われている給与が、副業の対価として、自分の成果に対して支払われたとき、それがたとえどれほど少額であっても、とてつもない重みを感じる。お金の価値が変わる。自分のスキルを磨くモチベーションが比にならないくらい上がるのだ。それに伴い、吸収できることもどんどん増える。


以前、尊敬するキャリアコンサルタントの柴田朋子先生が、「都政新報」令和3年1月22日号で、民間企業の人と公務員の違いは、「決める機会の多さ」だと指摘されていた。
(柴田先生の記事は、【若手へのエール!】都政新報リレー連載として、東京都小金井市の堤さんのブログで、読むことができる。柴田先生はじめ、素晴らしいみなさんの記事があるので、興味がある方には、ぜひお薦めしたい。)http://blog.livedoor.jp/nao_tsutsumi/archives/cat_1336049.html

この決断の機会が増えることも、副業のよさだ。自分で決めたことの結果を、自分で引き受けられるようになると、自信になる。この自信こそ、今の公務員に必要なものではないかと私は思う。自信があるからこそ、本業でもチャレンジができる。

2章については、個人というより、自治体である生駒市がどのように新型コロナに立ち向かったかという話だった。この部分は、キャリアというより、コロナ禍の市町村のまちづくりについての話かなと感じた。ただ、これは私が市町村職員ではないからそう感じただけで、市町村職員の人には、もっと響く内容なのかもしれない。
(ちなみに、まちづくりについては、同じ小紫市長の著書の『生駒市発! 「自治体3・0」のまちづくり』〔学陽書房〕もお薦めだ。)

3章については、正直、公務員1.0代表である普通の公務員の私には、荷が重かった。わかっちゃいるけど、できないというのが、悲しいかな、1.0公務員の感想だ。読んでいるうちにどんどん落ち込んでしまった。
地元「愛」という言葉にも、どうもひっかかりを覚えてしまう。私にとって、勤務先であり、地元であるまちは、あまりにも大きくて、あまりにも当たり前で、好きと嫌いが同居しているまちなのだ。大人になると、小さな子もどのように、親のことを、一遍の曇りもなく「大好き!」と言えなくなるのと似ている。ずっと共にあるからこそ、「別に好きでもないし」と言いながら、人から馬鹿にされると、「そんなことない! いいところもある!」と言いたくなるという感じと言えば、伝わるだろうか。長年連れ添った夫婦のようで、なくてはならないけれど、燃えるような恋心はない。これを、「愛」と語るには、甘さと情熱が足りない気がする。

第4章は、ページ数は少ないが、私の大好きな章だ。「地域活動の要諦は、とにかく「やりたいことを、地域を舞台としてやってみる。楽しんでみる」こと」という言葉に、3章で抱えたモヤモヤが、だいぶ晴れた気がする。なるほど、小紫市長の言いたかったコミュニティとは、こういうものなのかと、ようやく理解できた気がした。
4-5もいい。「ストレスに備えメンタルを鍛える」では、ストレスに向き合い、耐性を高める6つの方法が紹介されている。心の中では思いながらも、なかなか割り切れないことも、ズバリと書かれていることが気持ちいい。「逃げること、頼ることはダメではなく、むしろこれから評価されるスキル」というのも、立ち向かうことが正しい、一人でやりきることが美徳、と自分を追い込みがちな人にとって、はっとさせられる一節ではないだろうか。


ワークとライフは、二項対立ではないと小紫市長はおっしゃる。両者が、あるいはそれにコミュニティやセルフを加えた時間の使い方が、相乗効果を生むことが理想だ。しかし、時間という尺度で測ったとき、ワークとライフ、そしてコミュニティやセルフは容易に対立してしまう。そんなとき、焦る必要はない。時に、ライフが100%になってもいいし、ワークが100%になってもいい。長い人生だ。その時々に、割合を変えながら、時にコミュニティの、時に自分自身の、時間を組み立てて、自分が心地よいと思えるキャリアを作っていけばいい。

同じように日々を悩みながら、理想と現実の間でもがきながら過ごす地方公務員仲間が、本書を上手に取り込みながら、自分らしいキャリアデザインを描けることを願っている。

 
タイトル 地方公務員の新しいキャリアデザイン
著者 小紫 雅史
出版社・掲載メディア 実務教育出版
概要
関連URL 地方公務員の新しいキャリアデザイン
この記事を書いた人:編集長
編集長

隣の公務員管理人、キャリアコンサルタントです。スーパー公務員でもなんでもない普通の公務員を10年間、全うしました。令和4年3月に外の世界を見てみたいという謎の理由で退職。4月より子育て支援系スタートアップで経験0から人事に奮闘中。今、一番欲しいもの:有給と賞与と人事の能力。

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